坂の多い
港湾クレーン
墓石に白と赤の花が飛び交う
魚の影
これは雨
とは言わなかったが深緑
の海の底でシャワーを浴びる
人魚の群れ
いずれ死ぬ花と骨の埋没
手紙を結ぶ
駅から
山の手に上る道
建物に入れば建物から出る
犬には
餌をやらない
演劇
青いビニールシート
に血が垂れて
かぶと虫が寄ってくる
私たちはオレンジジュースを飲む
七ツ森殺人事件
風通しのよい現場
ここからは池が見渡せて
石碑もある
ラジオ体操もある
小学校は半休
午後は快晴
資料館に人はなし
殺人もどこかのどか
記憶
人間が砂になれば
人間は忘れられる
本当の微生物
が織りなす不思議
夢の果て
届かなかった
無数の声を
毛むくじゃらの姫が
歌う
時計が砂になるほどの
はるか昔の
花束
圏内
雨の中で
人だけがいない
獏園
時が経つと
美しい観光地になる
ミュージアム
泳ぎ疲れて
クジラの胃に泊まる
窓から見えるのは
昔の日々
未来のいつか
彼らもここに来た
彼らもここで
消化されていった
誤訳
セミ
かと思ったらエビ
枝にたくさんの甲殻類が
困っている
幽霊
雨が降って
図書館は水びたし
人々は閲覧室で
「メディアは戦争に」
「どうかかわってきたか」
議論する
世界はつながっている
月が落ちると
どこかで首が落ちる
水槽に毒を溶かすと
呼吸が苦しくなる
わかっていた
世界はつながっている
エンカウント
冷蔵庫の中から
あなたが出てきて
おとなになりたかった
と訴える
こんな夜には
ビルよりも背の高い
おとなになりたかった
おとなになりたかった
妊娠
姉の腹が膨らんでいく
膨らみはじめて
もう二十年になる
触ると暖かく
耳をあてると
なにかが聞こえる
まるで気球のよう
というわけで
針を用意してある
秘密
古い人体解剖図
の中の男に
愛をささやかれる
冗談
馬面の犬が
馬なのか犬なのか
誰にもわからない
郊外をギャロップで
駆けていく