les ombres 3

活劇

舞踏

渡り廊下

草むしり

あとの祭り

活劇

寝苦しくて目が覚める
触手のようなものが首を締めていて
暗闇に目を凝らすと
大イカが一本の足を伸ばしている
どうやらそれが眠りを妨げているようで
一体何の了見があって、と気色ばむと
イカは悲しそうに
こちらとしても不本意ではあるのだが
絡まってしまってどうにもならぬのだ
と蚊の鳴いたような声を出す
実際それは団子状にこんがらがって
そのなかばで首を巻きこんでいる
であるならば仕方がない
わたしもさむらいの端くれとして
大イカ妖怪を斬って殺し
切り身を布団に寝直し候


舞踏

屋台がひしめく中を
敵に見つからぬようぐっと腰を落とし
気配を抑えて中心へと向かう
一時は絶望に襲われたものの
そこはそれ我ら歴戦のつわもの
べっとりと黒いオイルを体に塗り
影のごとき姿で中心へ
そこには巨大な骨組みが立ち上がり
頂には白い錫杖が待ち構える
その奪還なれば勝利は近い
いよいよ深まる祭日の気配に
我ら全裸の蛙ども
櫓の骨組みに取りつき取りつき
ただ象形文字の踊るばかりに
天へ天へと昇っていく


渡り廊下

新館と旧館を繋ぐ渡り廊下が
道路の上にかかっていて
それをくぐって行った先が海です
わたしたちが着いた頃にはもう真っ暗で
大急ぎで荷物を運び入れ
各々の部屋に落ち着いたのでした
厨房の火は落としたとのことで
申し訳ないが食事は出せない
そう聞いたので商店で買うことにして
あらためて出て戻ってきたところ
頭上に伸びる暗い渡り廊下で
もう電気も消えていたのですが
なぜかそこだけ鮮明に
髪の長い人影が立っているのがわかって
よく見ると着物姿の女が一人
ぽっかりと空いた眼窩で
下を見下ろしているのでした


草むしり

庭の草が伸びてむさくるしい
植えている花が埋もれてしまって
見栄えが悪いし
こころなしか虫が増えた気がする
なのでそろそろ頃合いだと思い
草をむしりはじめる
鎌などの道具は使わず
手で草の首をぐっとつかんで
土からやさしく引き抜いてやる
踏ん張って抵抗するものもある
けれどもたかが雑草のことなので
軽い抵抗が楽しくもある
引き抜いた草は積んでいって
あらかた庭がきれいになったら
どこからか鬼がやってきて
積んだ草を崩していく
それがまた庭中に根づいて
前よりもっとむさくるしい
鬼もわたしもとても楽しい


あとの祭り

座敷を貸してやったら
ずいぶんと荒らされてしまった
土まみれになった畳を
泣く泣く雑巾で拭いていると
おまえがいつもそんな風に
下手に出ているからつけこまれるのだ
などと言って
口からとろとろと油を流しこまれる
平謝りに謝って
ここはなんとかおさめてくれませんか
と口の端で唱えると
相手もそれはそうだとわかったようで
でもきっちり落とし前はつけるからと
畳を踏んで帰っていった
ぐしゃぐしゃに汚れた畳を見つめて
これが落とし前というものか
泣いていると夜になり
やっと思い出したのだ
生前からずっとこうだったと