間際の風景

狂い

赤い彼岸花

入院譚

小人

狂い

狂いつづけてきた時計が
かすかな音をたてて止まった時

崖は 崩れてしまおうか
崩れないでこのままでいようかと
太陽をぼんやり浴びていて

かまきりの体の中では
はりがね虫が腸の形をしている

かたくなに腸の形をしている


赤い彼岸花

「ここから飛び降りてください」
と立て札にあったので
飛び降りたら
死んだ

見るものもずいぶん見てしまった
夜の枕の中で
そうは思っていても

赤い彼岸花がぐぐっと首を伸ばして
今にも死体をついばもうとしている


入院譚

待合室には薄暗い死角があり
その奥から話し声が聞こえてきた

飲酒や喫煙で
入院規則を守らなかった男が
形の上では患者の治療拒否とのことで
紹介状を持たされて転院する由
厄介払い

街なかの墓地に入っていく
通り抜けようとして奥を目指すと
ぐるぐる同じところを廻るばかりで
出口がない
仕方なく入り口から出る
紹介状は持たされなかったが

真っ黒な雲が頭の上にある
夕立を避けて店に入り
餃子を食べて
口を臭くする


小人

玄関に小人がいつまでもいて
眠りから覚めても
いっこうに帰る気配がない

そろそろ暮れたから
森に帰ったほうがいいよ
と耳元で言うと
舌を垂らして片目をつぶる

熱い風呂を焚いて
大根ひっぱって帰ってきても
まだいるので
いいかげんにしなよと怒ると
「あんなありさまでは
 命も長くはないでしょう」
なんて呟いているのが
負け惜しみなのかなんなのか

水苔の下の闇の中で
玄関に小人がいつまでもいて
眠りから覚めても
いっこうに帰る気配がない


桜を思いながら
眠りについて

夢の中では胸を斬られて
死んでいたのに

湯を溜めて
湯の中で手を握る

たしかめる
それから開き

それから花が
そっと浮かぶ