茄子にソースをかけたものを食べて外に出た。人が叫んでいる。何事かと思う がこの目ではよく見えないので構わず歩いていく。車と車の間には程よい間隔 があってところどころにきれいな売店も出ている。ジュースを買った。飲みな がら歩く。人が倒れてもう腐っている。 * * * おじさんは女性器の形の彫像を作って暮らしているという。売れますかと聞く と売れないという。できの悪いものはたまに庭に放り投げているらしい。カラ スが五羽、電線に並んで黒い目を光らせている。看板にぶつかってはいけない よというので、かなり苦労してそこを通過した。 * * * 柿がべちゃべちゃ落ちていて歩きにくい。甘ったるい匂いに胸が悪くなる。今 日は薬を切らしてきたので、全部やれるか心配だ。いつも以上に注意を払わな ければ駄目になるだろう。部屋に入ってからもまだ不安で、しばらくは電気を つけたり消したりして心を落ち着かせる。 * * * 突き飛ばされて線路に落ちたそうだ。痕が残っていたとのことで恐ろしくなる。 数人で肩を寄せて話しているのがガラス越しにぼんやりと浮かび、途切れ目か ら足元だけがくっきりと見える。いろんな靴を履いていて、男と女の足がある。 * * * 焼け跡を好む茸が一面に生えている。この先は藪になり、様々な鳥の住処になっ ている。近所の子供たちがよくボールをなくすらしく、金網が張られてその上 にツタが絡みついている。ささやかにお化けの噂もあったりなかったり。 * * * うつらうつらしているうちに人が来て去ってしまった。まだ明るいのでもう一 度呼ぼうかとも思ったが申し訳なくてやめる。それに夜には外に出かける用事 もある。救急車が二台続けて通ったのがちょっと気になる。上着を着て靴下と 靴を履いて暗い場所に向かう。 * * * 地上の空気が薄くて息がしづらい気がする。冬服を箪笥から出していると余計 に息が詰まって、ぞんざいな手つきで家事を済ませていく。天井いっぱいに知 らない人間の顔が広がっている。どこまで読んだかわからない本を開いて、ゆっ くりと記憶の脈絡を辿る。 * * * 明晰なままで狂っていくのだ。私ではなく世界が。信号は青なのに携帯電話を 覗き込んでいるせいで誰も渡ろうとしない。鳥は空中で弱く羽ばたいている。 夜の鉄塔には犬も猫も人間も一緒くたに吊り下げられて、皆まだかすかに息が ある。 * * * またこの場面。古い映画の中で若い祖母が蕎麦を啜る。つるつると延々と啜っ ているので逆に吐き出しているようでもある。黒縁眼鏡をかけて、お下げが 二つ。その脇に若い祖父。母方の実家のようだがそうではないのかもしれない。 地下かもしれない。