真夜中の生活

箪笥

宇佐

バッハ

ジミヘン

未来さん

ひげ茶

青い石

地獄

はて人間は?

椿

箪笥

箪笥の中で眠っているといろんなことを思い出す。外では送電線がぶんぶん唸っているので余計にそうだ。
そのうちまた学生服を着た鶏のような女がやってきて、箪笥ごと海に運ばれるのだろうけれど、今はまだ
真夜中の最初のほう。まんじゅうを蒸して転がしたり、古い地蔵と笑ったりしていたい。


生活に狂え
と一言いただき
巨大な師の生首が
浮かぶ町で暮らすことになる

朝夕を過ごし
飯を食い糞をひり
普請して窓から師の顔を
眺めて暮らす

空は磨いたようで
風は穏やかに吹く
腐りはじめた師の
甘い腐臭を運んでくれる


宇佐

宇佐の古墳に眠る人が
来るというので仕出しを取って待っていたのに
なかなか来ないから気になって
語尾がうさになってしまった
困ったうさ……
とか言ってるうちにその人が
すごいニコニコしながらやってきて
遅れたお詫びにと
真っ赤な蟹を置いて帰った
うさうさ言ってた甲斐があったというもの
蟹は蟹鍋にして食おう


バッハ

う、うそ
あ、あほらしい
か、考えられない
そんなことを歌っていたせいで
バッハが床から生えてきて
そんなことのために
おれは楽譜を書いたのではないぞ
怒るぞ
と怒っているのだ
しらんけど


ジミヘン

ジミヘンになりてぇな
なりてぇよ
なればいいじゃんジミヘンに
そんなわけで楽器屋に来たのに
三味線しか売ってない
工夫すればこれでも案外
イケますよ
とのことなので買って
担いで帰る途中
むきむきの白鬼に遭遇
慌てて三味線で殴ったら
べいーんと鳴って
鬼の頭はぶち割れる
弦は全部ぶち切れる
走って家に帰り着いて
ほっと一息ついたところ
でも今日の出来事って
地味にヘンドリックスじゃない?
なんて言ったら
ジミヘン怒るかな


未来さん

あなたもわたしも未来さん
そうなんです、未来さん
ガンダムに出てましたか?
そうその未来さんです

砂場を掘り続けて
掘り殺したこともあった
明るい未来さん

背中に羽をはやして
アメリカを楽しみます
鼻血を出しているお母さん
お父さんとお犬さん
目の端がとろんとなって
それから

サンゴ礁をすくい取って
アイスクリームのっけてもいいね
ロケットで火星
目指してもいいね
明るいわたしは
サザエさん

えっ、サザエさん?


ひげ茶

都で流行っているひげ茶です
これはご丁寧にどうも
と、そのような取引があってから
何度か顔を洗って
学校にも行きました
戦争があったかもしれません
泣いて帰って戸棚を開けて
ざざーっと海の音をさせて
とろとろ煮出して飲むと
これはこれでおいしいような
いやこれはかなりおいしいぞ、と
血眼で電話して
そんならまた持っていきます
そう仰っていたのに
もうあれから二度と来なくて
死霊の国と現世との間にある
大岩をごつごつ叩いて
あのお茶
あのお茶でないと駄目なんです
聞こえていますか
あなたが千人を殺すなら
わたしは千五百人を生んでみせましょう
その前にもう一杯お茶が
あのお茶がほしい
ここらで一杯ひげ茶がほしい
はやく
はやく
生きてる間にひげ茶がほしい


青い石

これは沙石集にのっている
霊験あらたかな青い石ですよ
トイレのタンクに入れてお使いください
とてもいい匂いがしてきます
本当です


地獄

まんじゅうをお湯で溶かして
ぐにぐにして食べていたのだけれど
そんなことはやめろと言われて
めんどくさいな
おまえはこうじゃ
と、針を突き出す
それが傍目に面白かったのか
さらにさらに鬼の口で笑われるので
刺しまくって針千本にしてやる
人を笑うなんておまえは
つまらんやつだなと思ったけど
針山を歩いていく人が大勢いて
一緒に行きませんか
向こうはいいところっすよ、と
あれ、やっぱりわたしも地獄に行くのかな
それはやだな
弁当作るので待ってもらっていいですか
そう言った先に大腕が伸びてきて
卵をぐしゃりと握り潰す


はて人間は?

極楽の湯に浸かってたのに
途中で鬼の一行が入ってきて
これはかなわんと場所を移動したら
深夜のゲームコーナー
暗闇に画面だけぴかぴか光ってる
コーラ飲みながらにらめっこして
口の中じゃりじゃりいわせてさ
土産屋の生首もにっこり微笑んでる
帰りたくないな
永遠にここで輪廻を巡っていたいな
百億回も生死を繰り返したその時
はて人間は?


椿

自殺しちゃったけど
このあたりに井戸掘り名人がいて
地下のことにとても詳しかった
金持ちで人に時計をやったり
飯を食わせたりしていたよ
上着をこの枝に掛けて
煙草を一服するのが好きだった
くびれてしまったけど
昔ここにそういう人がいた
と、椿の精が教えてくれた


醤油味の卵焼きを焼いて
飯にのっけて食べる
熱いお茶を何杯か飲んで
それから海に行くと
無数の海亀が腹を上にして浮いている
生きているのか死んでいるのか
それはわからないが
歩いて向こう岸まで渡っていけそうだ
渡っていこう


夜中に起きて
誰もいない
台所の小さな明かりの下で本を読む