首都へ

メルヘン

人魚

黒猫

六月通信

気がかりについて

蛍光灯

観葉植物

メルヘン

夜中に目が覚めて
屋上の鉄がさやさやと鳴り
滴りの下で
首を引っ掛けては結び
あやとりが永遠に
終わらないとしたら
どうする?
人かとも見える群れは腕を
どこまでも伸ばそうとして
川に浸っているのが
ここからはよく見えるよ
判子のように押されている
影を
この世に止めていたい
公園のベンチで魚人に
瞳を見られた


人魚

夜明け前にはいつも
街路樹が一瞬だけ背伸びをする

夜のうちに出されたゴミ袋は
浅く水たまりに浸かって
少しの間まどろんでいる

生きていた時のこと
本当に言ってほしかったこと
使い古しの花瓶は砕けて

どの夢もただの思い過ごしとして
消えてしまうのだろう
閉じた目蓋の奥で
息をひそめて小さく歌う
朝が嫌いな人魚が帰っていく


黒猫

泳ぐ人々の
夢で見られた
歌の練習をした廃屋に
きみの写真が飾ってある
と言ってくれたっけ
でもそうやって
憧れているわけにもいかない
細かな雨をまとった電車は
地面の下に
郊外を滑り落ちていく
あの柱時計の周りを行けば
きっと会えるかもしれない
枝を離れたばかりの
いつもと違う花を
飲み込んだ心臓は
新しい血になればいいと
ぱくりとドーナツを食べて
血になるはずだと
猫は言うんだけど
本当に?


六月通信

誰が触れたの
あのあじさいはうつつ

電話が鳴ると
いつも人が消える
挨拶をするたびに
息の中を遠ざかっていく

音もなく
暗がりの横顔は白く
また手紙を書くよ
流れ流れてゆくのなら
きみのために
六月の雨


気がかりについて

遅い帰り道は
雨に濡れててらてら光る
路側の白線に沿って歩くと
導かれているようで
なんだか安心する

怖いものは何もない
たとえば気づかずに
かたつむりを踏みつぶしていた
なんてことも

階段を上がる
ドアを開ける
部屋の中の暗さが殺到する
靴を脱いで
電気をつけようとする
手探りで
スイッチが見つからない

ふと気づく
ぽたぽたと
水道が何か話したがっている
ずっとそうしていたのか
朝から今まで
誰もいない場所で


蛍光灯

蛍光灯が明滅している
何度か取り替えても
変わらずちかちかしている

アパートの前にタクシーが止まり
客を降ろして走り去った
と思うと、降りた客が追いかけて
行きかけたタクシーをもう一度止めた

もう何日も前から
試用期間の切れたウイルス対策ソフトが
危険な状態を警告してくる
「ご使用のパソコンは」
「危険な状態です」
ポップアップ

蛍光灯は明滅している
替えても明るくはならない
夜中に起きて
水を少し飲む


観葉植物

片隅で中国語が聞こえている
それが意味するもの

空にかかる
「月は古い飴玉」
「海は流れ出た油」
それが町中に広がり夜になる
それがわかる

眠れないのなら
眠らなくてもいい
と言っている気もする