通り魔たち その5


闇に飲まれる海を
歩いてくる人々がいる
靴を履かずに
埋立地から町へ
明かりへ



*



事故の影響で
ダイヤは一斉に狂った
側溝に流れ込む雨は
こんなはずではなかったと
地上を蔑んでいた



*



鳩が鳩を食っている
噴水はからからに枯れて
人の気配は久しくない
棚が倒されたコンビニの
自動ドアが執拗に開閉を繰り返す



*



一室は閉め切られたまま
大人の背丈ほどの雪だるまが
溶けずに佇んでいた
ちかちかと
蛍光灯が明滅している



*



取り壊された後でも
まだ建っている
住人もいる
水道は通っているが
金気が強いらしい



*



空中で分解する電波
強い電波、弱い電波
尻尾と目玉を持った
死んで間もない電波



*



てるてる坊主の影が
映っているのに
どこにも吊られていない
部屋は静かで
窓は固く閉ざされていた



*



壁にめりこんでいる男
胸のあたりで断ち切られ
頭が向こうに抜けている
スーツ姿
夜には発光する



*



耳まで裂けた口で
猫を食べる
きゅうりもかぼちゃも食べる
ああ見えて実は
落ちてきた天使なのだ



*



宙に浮かぶ片足の靴は
よく見ると糸で吊られ
静かに回転していた
餡子がぎっしりと詰まって
重そうだった



*



積荷を降ろして
トラックは去っていった
タイヤの跡には水が溜まり
それで化粧を直す
顔のない動物もいた



*



腕を広げた案山子のようで
案山子ではなかった
タイヤで平たく潰された
猫なのかもしれない



*



昼も夜も
野原で回っている室外機は
自分が幽霊であると
知りながら回る
回り続ける



*



折れた枝の先から
複数の白い紐が伸びて
うつろに宙を掻いていたが
鳥は見向きもしなかった
雲は素早く流れた



*



落ち葉の一枚一枚に
墨の文字が浮かび上がる
しゃがんでそれを読んでいた
透明な人が
轢かれて粉々になる



*



日差しを避けて
かたつむりが多く住む
雑木林の下生えに
点々と
手首が落ちている



*



敷き詰められた畳は
全て腐っていた
そこに住む家族は
ガスで死んだというので
声が少しおかしかった



*



川は地下深くを流れて
輝く五色の花々を運んだ
時に人がそれを得て
不死になることもあった



*



羽根と骨の塊になって
ゴミはよちよちと歩く
レールの上の光の反射
乾いた砂利が勢いよく
垂直に飛び跳ねて
静止している



*



もう長いこと
膝を丸めて埋められていた
人が起き上がって
雲の流れる空を眺める
そのすみれ色