藪にピアノが捨ててある 埋もれているがそれは確かで おぼろげに形がわかる 鳴ったりはしない 棺のようで不気味である * 腹の裂けた猫が 中身をこぼしながら歩いていく こぼれたのは極小の猫 共食いをするだけして やっぱり皆死んでしまう * ぶらんこや滑り台など 遊具があるのに人がいない それには理由があって 遊んでいると男の声が耳元で 長い悲鳴をあげるからだという * ある庭でずっと バウンドしているボール 二階の高さにまで上がって 落ちても音はせず 怖いほど血管が浮いている * なんのつもりか 生の鶏の手羽元が 塀の上にずらりと並べられ 荒らされもせず 新鮮さを保っていた * 陸橋の裏側には 熟れたりんごの実が沢山 時々滴るように落下して 人を殺す 大きな腫瘍にも似て * 段ボールが舞い上がって 一瞬人間の形を作り すぐに落ちて動かなくなった 車輌はその上を通る * 世を深く恨む 遊歩道の車止めの群れ 己の存在に飽き飽きして 風が吹くたび 酷く軋んでみせる * 一本足で 苔や新聞紙を食べる 死んでいるのに 本人はそれを知らない 鳥と仲がいい * ミミズの化生なので 両目は潰されていた 歩きながら口を動かして たまに泥を吐き出した * 羊羹や豆腐は 歯がなくても食べられる 顔の中心に 闇の穴をぽかりと開いて 這う女は笑っている * 唇も目蓋もなくて 生きるのは大変そうだった もうじき取り壊される ゴミまみれのアパートのベランダに 彼らは住んでいる * 花壇には首が埋まっているので 花木の育ちは良い ほとんど黒に近い赤薔薇が 健やかに南を向いて 刺す虫と戯れていた * 雲の上はるか 青空の小さな染みとして のんびりと優雅に飛び去る 巨大な牛の舌 * 幾重にも重なった 花弁をむしっていくと 恐怖に表情を歪めた 顔が現れることがある * 雨垂れの跡が 壁に格子のような模様を作り その中に 仲の悪い姉妹が暮らす 路地は血の色の夕日 * 描いた者も忘れている 看板の隅の黒猫 伸びをする姿勢のまま いつまでも生きて この世が先に終わる * 断ち割られた犬が 全力で駆け回っている 校庭はぬかるんで 早すぎる冬の 心音の夜が始まっていた * 砂から手足が出ているのが 流木のようでもあった 波打ち際に海月が寄せて 骨の海亀も 産卵にやってきた * フロントガラスには落ち葉が積もり 車の中を見えなくしていた ほんの少しだけ腐敗臭が 外に漏れている