通り魔たち その4


藪にピアノが捨ててある
埋もれているがそれは確かで
おぼろげに形がわかる
鳴ったりはしない
棺のようで不気味である



*



腹の裂けた猫が
中身をこぼしながら歩いていく
こぼれたのは極小の猫
共食いをするだけして
やっぱり皆死んでしまう



*



ぶらんこや滑り台など
遊具があるのに人がいない
それには理由があって
遊んでいると男の声が耳元で
長い悲鳴をあげるからだという



*



ある庭でずっと
バウンドしているボール
二階の高さにまで上がって
落ちても音はせず
怖いほど血管が浮いている



*



なんのつもりか
生の鶏の手羽元が
塀の上にずらりと並べられ
荒らされもせず
新鮮さを保っていた



*



陸橋の裏側には
熟れたりんごの実が沢山
時々滴るように落下して
人を殺す
大きな腫瘍にも似て



*



段ボールが舞い上がって
一瞬人間の形を作り
すぐに落ちて動かなくなった
車輌はその上を通る



*



世を深く恨む
遊歩道の車止めの群れ
己の存在に飽き飽きして
風が吹くたび
酷く軋んでみせる



*



一本足で
苔や新聞紙を食べる
死んでいるのに
本人はそれを知らない
鳥と仲がいい



*



ミミズの化生なので
両目は潰されていた
歩きながら口を動かして
たまに泥を吐き出した



*



羊羹や豆腐は
歯がなくても食べられる
顔の中心に
闇の穴をぽかりと開いて
這う女は笑っている



*



唇も目蓋もなくて
生きるのは大変そうだった
もうじき取り壊される
ゴミまみれのアパートのベランダに
彼らは住んでいる



*



花壇には首が埋まっているので
花木の育ちは良い
ほとんど黒に近い赤薔薇が
健やかに南を向いて
刺す虫と戯れていた



*



雲の上はるか
青空の小さな染みとして
のんびりと優雅に飛び去る
巨大な牛の舌



*



幾重にも重なった
花弁をむしっていくと
恐怖に表情を歪めた
顔が現れることがある



*



雨垂れの跡が
壁に格子のような模様を作り
その中に
仲の悪い姉妹が暮らす
路地は血の色の夕日



*



描いた者も忘れている
看板の隅の黒猫
伸びをする姿勢のまま
いつまでも生きて
この世が先に終わる



*



断ち割られた犬が
全力で駆け回っている
校庭はぬかるんで
早すぎる冬の
心音の夜が始まっていた



*



砂から手足が出ているのが
流木のようでもあった
波打ち際に海月が寄せて
骨の海亀も
産卵にやってきた



*



フロントガラスには落ち葉が積もり
車の中を見えなくしていた
ほんの少しだけ腐敗臭が
外に漏れている