通り魔たち その1


風はプールを波立たせた
濁った水底には幾人もの女が沈み
ゆったりと回遊している
着物の裾を触れ合わせながら
言葉も交わさずに



*



青いゴムホースで縛られた家
血管のように水が通っている
夜の間にだけ現れて
猫が出入りする



*



饐えたゴミ捨て場に群れる
カラス
野良猫
ハエや虫けら
それから髪を引きずる
なにか得体のしれないもの



*



妊婦の腹のような
鞠状のものがぶつかるので
壁にはうっすらと
茶色い跡が残っていた



*



坂下のどん詰まりに
桜の古木があって
黄昏時に木肌に触れると
人間の舌のような風が
耳元を吹き過ぎるという



*



地蔵の頭上を
飛行機雲が伸びていく
その束の間にだけ
地蔵は忿怒の表情をする



*



ブロック塀の穴に
みっちりと肉が詰まっていた
轢かれた空き缶が
内臓をはみ出させているのも
そう珍しくない



*



運ばれていく事故車の上に
小さな獅子舞が舞う
華やかに紙吹雪を撒いて
空中を上下に
無音のままで



*



電柱の高いところに
ビニール袋が引っかかっていて
その中で蛆混じりの赤土が
延々と何かを呟いている



*



人が飛び降りた後の地面を
馬ほどのタツノオトシゴが
長い舌で舐めにくる
つられて何匹か次々と



*



雨が降って
捨てられた骨壷が
白い中身を吐き出している
バスターミナル



*



片隅の井戸は
何度さらっても髪が出るので
長年閉鎖されている
嵐の晩にはその下から
宴会の音が漏れ聞こえる



*



藤棚の砂場から
這い出てくる子供たち
羽化するための
適当な高さの木を探して
町をさまよい歩く



*



入道雲になって
歩いている男が
火葬場の煙突を
ちゅうちゅう吸っている



*



首の周りに
赤い布を巻きつけたような
そこだけ血まみれになった白馬が
電線を伝って走っていく



*



どの窓にも顔が映し出されて
等しく激怒の表情を浮かべているが
何に怒り
何に絶望しているのか
自分にもわからないのだ



*



高い木の枝から
様々な年齢の男女の
胴から下の部分が吊られている
どれも裸で性器がある
鳥のいない雑木林



*



猫の死骸は常に変化する
緑色に苔生していることも
骨になって散らばっていることもある
時々は生き返って
餌をねだりに行くこともあった



*



鏡は砕けて散らばり
方々で同じ顔を映す
顔は軽く口を開けている
そこから甲虫が這い出る
何匹も



*



焼けた金木犀が片付けられて
そこは小さな駐車スペースになった
もう何十年も前のことなのに
まだ香りが漂っている
秋の暖かい日